本杉准教授の論文が、American Journal of Roentgenology 誌に掲載

2016年09月16日

本杉准教授の論文(Acute Adverse Reactions to Nonionic Iodinated Contrast Media for CT: Prospective Randomized Evaluation of the Effects of Dehydration, Oral Rehydration, and Patient Risk Factors.)がAmerican Journal of Roentgenology (AJR) 誌に掲載されました。 PubMedを見る

 

CTの急性期副作用について調べた結果がAJR に掲載されました.
CT造影剤の急性期副作用は全体の約5%ほどに見られるとされています.それらは即時型アレルギー反応(発疹など)とそれ以外(悪心・嘔吐など)に分類されますが,ほとんどが軽症で,経過観察のみで軽快します.しかし,たとえ症状が軽くても検査を受ける患者さんにとっては不快なものです.急性期副作用の原因は不明ですが,脱水状態がリスクの一つとして考えられていました.実際に造影CT検査の前にどのように患者さんへの説明がなされているかを見てみると,面白いことに施設によってばらばらです.当日は朝から絶飲食を指示しているところもあれば,絶食だが水分摂取は可としている施設もあります.また食事制限を特に定めていない施設もあります.絶食を指示する背景は,副作用で嘔吐が起こったときの誤嚥を防ぐためと説明されています.絶飲食も同様の理由ですが,前述の「脱水がリスクかも」という見解が出てからは飲水は可とする施設が増えてきました.しかし,そもそも嘔吐が起こったとき誤嚥するリスクが,朝食摂取の有無で異なる...というエビデンスは(おそらく)存在しないので「絶食」という指示だって相当の根拠があるものではありません(注:絶食の理由として,「胆嚢を拡張した状態で検査したい」または「胃が拡張していると周りの臓器が見にくい」...などもあり,そういった理由は納得できます)

これらを受けて,山梨大学では,脱水状態(検査前6時間以上の食事・水分摂取なし)が急性期副作用発現のリスクになるのか,そして検査直前の水分補給は副作用低減につながるのかを5000人以上の患者を対象に前向きに検討しました.

結果,いずれも否定的でした.脱水状態があっても,また検査前にOS-1(経口補液)を摂取しても副作用の発現率に差は認められませんでした.この結果から,急性期副作用の発現頻度と脱水状態に相当の関連はないことが分かりました.また,CT検査の前に副作用のリスク減らす理由で「経口補液を推奨すること」に意味はないということがわかりました.

つまらない結果だなあ..と思われるかもしれません.このようなデータをネガティブデータといいます.ネガティブデータは研究結果としては面白みがなくて,なかなか雑誌から受理されにくいのが現状です.しかし,このようなネガティブデータが公表されないことでいくつもの社会的不利益が生じるとされています.ひとつは,同じデザインのスタディが繰り返して行われる危険性です.研究資金が無駄に投入される可能性があります.もう一つは,幾つもの研究結果を合わせてガイドラインなどを作成する際,ネガティブデータが引用されないことにより誤った解釈が行われる危険性です.例えば,Aという薬は効果があるというという研究結果が2つ,効果がないという研究結果が2つあったとき,もし効果があるという結果のみが雑誌に掲載されていたら,エビデンスに基いて判断するときは「効果がある」と(半ば誤って)判断されてしまいます.これをPublication bias と言います.行われた研究結果は公の資産として公開されるべきなのです,結果がたとえネガティブなメッセージだったとしても.(筆者:本杉宇太郎)